旅と、音楽と、歩くこと。
/【インタビュー】ラッキーオールドサン

2022-08-09

はじめて訪れる場所のはずなのに、懐かしいと感じる場所がある。
何十年も会っていなかった友達なのに、再会した瞬間、昨日も会っていたかのような気持ちになる人がいる。
ラッキーオールドサンの楽曲はどれも、こういう不思議な距離感で僕たちの耳に聴こえてくる。

篠原良彰さん(Gt,Vo)とナナさん(Vo)の2人から成る、ラッキーオールドサン。2人が生み出す音楽の特徴を挙げるとすれば、次のようになるだろうか。日々の出来事がそのまま反映されたかのような“近しさ”を感じる日本語の歌と、優しく心に沁みるメロディー。フォークソングや日本語ロック黎明期の雰囲気を感じさせながらも、どこか強烈に“今ココ”の気分や時代の皮膚感覚をとらえている楽曲の数々。

ラッキーオールドサンの音楽を聴く時、僕が幻視するのは人とのコミュニケーションをデジタルツールに頼らない世界だ。長旅に出ている友人から絵ハガキが届いたり、駅の伝言板を使って恋人と待ち合わせする世界。はじめての場所に行くためには大きな紙の地図を広げなければならず、遠くの誰かに「会いたい」と思ったらトランクケースをもって旅に出掛けないといけない———。

そんな心惹きつけられる風景を音楽で見せてくれるラッキーオールドサンは現在、昨年5月に完成したアルバム「うすらい」を携えての全国47都道府県ツアーを実施中。ツアー名は『うすらいの旅』。来る2022年の8月14日には、【北海道編】が開催される。

今回はとても有り難いことに、その開催を前にしてのインタビューが実現。ラッキーオールドサンのお2人に、旅のこと、音楽のこと、歩くこと、について聞きました。

「ライブで歌った景色や情景が、
その日に来た その土地にもあるな
と気づくことが多くて」

▲ 篠原良彰さんとナナさん
―北海道にはどんなイメージがありますか?

ナナさん:とても広くって、美味しいものがたくさんあるイメージ。私はまだ行ったことがないので、そういうイメージですね。

篠原さん:北海道ってすごく大きいですよね。ちょっとまだ自分達は体感したことがないくらいの、大きい場所を想像しています。今、結成して8年目くらいなんですけど、北海道へは修学旅行で一度くらい、ライブでは一度も行ったことがないので、楽しみにしています。

―では、記念すべき初の北海道ライブですね。北海道のファンも楽しみにしていると思います。北海道の音楽リスナーに向けて、自分達がどんなアーティストか、あえてお2人の言葉で紹介するとなると、どういう言葉になるでしょうか?

ナナさん:2人で活動していて、ある時はギター1本で演奏したり、エレキギターを2人で持って演奏したり、またあるときはサポートメンバーを呼んでバンドセットで演奏したり、ジャンルにもとらわれずにその時にやりたいことをやっているバンドだと思います。

篠原さん:2人だからこそやりたい事が色々できると思っていたし、その時その時でやりたい音楽を追求できるんじゃないかな、っていうのは漠然と思っていました。

―最新作のアルバム「うすらい」についてもお聞きしたいです。このアルバムの制作はどういったタイミングやきっかけでスタートしましたか?

篠原さん:きっかけ、というのはあまりあるわけではなくて、ただ結構前から、レコーディングとかデザインとか「ぜんぶ自分達でやろう」と構想としてはありました。ちょうど自分達が結婚して、居を地方に移したタイミングで自然と作り始めた、という感じではあるんですけど意外と録り終えるまでに時間はかかっていて…2年くらいかかった?

ナナさん:そうだね、2年くらいかかったね。

篠原さん:時間も特に考えずに、「できる時にできるだろう」くらいの気持ちで作ってたので(笑) それで去年完成して、発売しました。

―今回はさらに販売も、ライブ会場での手売りとホームページからの通販のみという形でやられていますよね。それも当初からすでに考えとしてあったんですか?

ナナさん:いったん“ぜんぶ”2人でやってみたいって思って、会場決めとか会場とのやりとりとかも。

篠原さん:そうですね、自分達だけでぜんぶ届けると、やっぱり“直接渡している感”がすごくあって、自分達の音楽を聴きたいと思ってくれている人とダイレクトに接点ができるような感じもして。そういう意味では、やってよかったなって感じます。

―では北海道のライブ会場でも、アルバムを直接受け取ることができるんですね。

篠原さん:そうですね。本当に、“色んな人に会いに行く”というのをテーマにやってる感じです。

―楽曲を聴いていて思うのですが、ラッキーオールドサンの音楽において「旅」はとても重要な要素かなと思います。お2人にとって「旅」と「楽曲制作」はどのように関わっていますか?

ナナさん:自分の場合は、自分が見たものとか自分が思ったことが曲の糸口になることが多いので、旅に出れば旅の歌ができるし、旅に出られなければまた別の曲ができるし。だから…“旅に出ていることが多いから”ですかね、旅の歌が多いのは。

篠原さん:あと、お客さんとかに言われて気付くのは「移動の歌が多い」と。あまりそれを意識しているわけではないんですけども、おそらく“ここじゃないどこかへ行きたい”ということもあるだろうし、逆に行った先でいろんなものを懐かしいと思ったり、また帰りたいと思ったりすることもあるだろうし、特に意図はないかもしれないし…。我々としては、ナナさんが言ったように旅する機会が多いので自然とそうなるんだと思うんですけど、色々感じてもらえるみたいで、こっちもすごく興味深いと思ってます。

―「47都道府県に行こう」と決めた時のことは覚えてらっしゃいますか?

ナナさん:最初は、本当にできるかな? って思った記憶があって、ほとんどが行ったことない場所だし。

篠原さん:大変だろうけども、やる意味はある気がしています。やっぱり自分も地方に住んでいるので、地方に住んでいるとなかなか聴きたい音楽とか触れたいものにすぐには触れられなかったりする。でも、色々な所に聴いてくれている人がいるので、そういった人たちに直接会ってみたいな、っていうのはすごくありました。

―「旅」することで見えたもの、考えたことはありましたか?

篠原さん:歩く、っていうことに対して自分は最近すごく意識的です。旅とは言っても今は交通機関も発達してますし、昔の人が経験していたほど困難な旅ではおそらくなくて、観光する余裕もあったりする。その中で思うのは、その土地土地でできるだけ歩いた方が「面白い」というか…歩いたり、立ち止まったり、生身のスピード感を大事にしたいというか。
言葉にするのは難しいですけど。こう、たとえば何もないような場所でも歩いていたら発見もあったりするので、いろんな土地をできるだけ歩いてみたいという気持ちがあります。

―確かに歩く速度は、いちばん色んなものに出会える速度かもしれませんね。
ナナさんはいかがですか? 47都道府県への旅をしていて、考えたことや見えたものはありますか?

ナナさん:私は、人と会うことがすごく大事だなと思いました。人とまったく会えない期間もあったけれど、ツアーに出るようになって行ったことがなかった場所にもお客さんが来てくれて。それはすごい心強いことだと思っています。
ライブをする会場も自分達で決めていて、直接会場の方とやりとりをしているのですが、会場を貸してくださった方たちがどこの場所もみんないい人で。だから、ちゃんと直接やりとりをして、自分で会いに行って、人と話したりすることってすごい大事だなと思いました。

―「旅」で必ず楽しみにしていることはありますか?

ナナさん:私は食です。

篠原さん:お客さんにおすすめのところを聞いたりして、そういう所にはできるだけ行ってみたりします。

ナナさん:あと、篠原さんは“郷土玩具”。

篠原さん:郷土玩具というか、縁起モノとかがすごく好きで、ついつい集めてしまう(笑) 昔からあるようなおもちゃとか、工芸品とか、そういうのはお土産物屋さんで探したりします。

ナナさん:だから、いま玄関がすごいことになっていて(笑)

―では、木彫りの熊もぜひそこに加えてください。

ナナさん:欲しいんですよ、北海道で!

篠原さん:そうですね、それは買うって決めてます。沖縄でシーサーを買ったので、北海道では絶対、熊を(笑)

―そうすると、ツアーではお客さんとのコミュニケーションも楽しそうですね。

篠原さん:いろいろ教えてもらって回ってはいるんですけど、おそらく一周ではもう足りないというか。ツアーで一周して終わりという感じはなくて、何度もまわっていきたいという気持ちにはすでになってます。

―行ったそれぞれの土地に、ラッキーオールドサンを待っている人がいるのではないかと想像します。「うすらいの旅」をしながら、楽曲に対する想いが変化したり成長したりした、などはありますか?

篠原さん:よく、「自分のまちのことを歌ってくれているように聞こえます」と言われることがあるんです。そういう事を言ってくれたりすると、色んな場所でそういうふうに聞かれているんだってこっちが教わるというか…「そんなふうにこの曲は聴こえていくんだな」って、自分の手から離れて成立している感じがして、すごくハッとすることはあります。

―確かに、ラッキーオールドサンの楽曲には、暮らしの中に自然と備わってしまう風景があると思います。「自分のまちのことを歌ってくれているようだ」、っていうのはすごく共感です。ナナさんはいかがですか?

ナナさん:私もいま似た事を思っていました。ライブで歌った景色や情景が、その日に来たその土地にもあるなと気付くことが多くて、だから面白いなって、旅先で歌っていて思ったことはあります。

―YouTubeチャンネルではHOMEMADE CONCERTのシリーズも制作されていますよね。これについてもお聞かせ願えますか?

篠原さん:HOMEMADE CONCERTは、コロナの情勢が非常に厳しくどこにも行けないような時期に、ライブができなかったので地元の海とかに行く機会があって、そこで撮ってみたものです。

▲HOMEMADE CONCERT 2020.09.27

篠原さん:ちょうど「うすらい」を制作していた頃は、よく2人で誰もいない海や川へ行ったりしていました。そういう、誰もいない空間で2人で作ったものを持って色んな人に会いに行くっていう、そのコントラスト、閉じ切った世界が広がって拡散していく“行き来”に自分はすごくエネルギーを感じるので、なにかこうまた大きく広がって、誰かとダイレクトにつながる機会になるのかなと思うとすごく非常にわくわくします。

―では、最後になりますが、8月14日の“初・北海道ライブ”はどのようなライブにしたいと思っていますか?

ナナさん:それはもういつも通りに(笑)

篠原さん:強いていうなら、我々はけっこう無計画なところがあるので(笑) 青森に行って、函館から札幌に渡って行くので、しっかり計画をして。

ナナさん:よく新幹線に乗り遅れたり、飛行機にギリギリになったり、ほとんどそんな感じで(笑) なのでちゃんと北海道に着くようにして、ライブしたいです。

―青森から来られるんですね! すごく良い北海道への旅の仕方だと思います。ライブ会場でお会いできるのを楽しみにしております。本日はありがとうございました。

〈写真提供:ラッキーオールドサン、インタビュー構成:竹田賢弘

Information

ラッキーオールドサン 47都道府県ツアー
イベント名:【うすらいの旅・北海道編】
場所:musica halle cafe
日時:2022年 8月14日(日曜日)Open 17:30〜/Start 18:00
チケット予約:イベント名/お名前/枚数 を明記の上、luckyoldsun.customer@gmail.com まで。

ラッキーオールドサン 最新アルバム「うすらい」

購入は各ライブ会場、またはオフィシャルショップにて。

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