旅するフィルムカメラ in ドイツ
―Film is not Archives, It’s Alive.―
2024-09-24
※この記事の登場人物の一人は、「現場監督」という名前のフィルムカメラです。(一人、と数えていいはず。なにせそれくらいキャラクター性のあるカメラだから。)
あたらしい世代の、新鮮な感覚を持っている人が、ひとつ前の世代のテクノロジーで今を切り取ったら、何が見えるんだろう? これが、当初考えていたことでした。
まず説明すると、「旅するフィルムカメラ」とは、札幌でカメラショップを経営する大江大さんがご考案された企画です。
本文中でも言及がありますが、フィルムカメラの魅力を世の中に広めるべく、日本各地の希望者にカメラを貸与し、フィルム一本分の写真を撮って送り返してもらう、——この一連を「カメラの旅」と捉えた、カメラ愛にあふれる企画になっています。今回の記事は、大江さんのこの企画をお借りすることで実現しました。
そして、フィルムカメラで写真を撮るのは、東京―札幌で活動するZ世代のアーティストでVJや3DCGを中心に映像やグラフィック制作を行うIto Aoiさんです。
Itoさんとは、以前の記事でもお世話になったChameleon Labelを通して知り合った際、聞けばなんとドイツ・ベルリンに旅する予定があるとのことで、「じゃあフィルムカメラを持って行ってくれませんか!?」 とお願いしたところ、快く了承してくださいました。
こうして実現したのが、「旅するフィルムカメラinドイツ」です。
大江さん、Itoさんへのインタビューという形式はとっていますが、今回はベルリンのちょっと変わった旅行記と思ってお読みください。
それでは、良い旅を。
1. 現場監督、ベルリンへ行く。

―ではまず、今回、Itoさんがドイツへ行った経緯から教えてください。
Itoさん:今回のドイツ行きの経緯は、メインの目的があってというよりも、けっこう複合的な感じです。大きなきっかけは、大学時代の友人で卒業してすぐニューヨークで働いている子がいて、海外に意識が向いていたこと。それから、生きていく時間が長くなるほど仕事とか家庭とか、背負うものが増えてノリで海外に行くことができなくなっちゃうと思っていたこと。加えて、大学の卒業旅行的な意味合いもあります。
お仕事で一緒にお仕事したレーベルがドイツの方だったり、20歳の頃にインドネシアで出会った友人がドイツの子だったりと、結構ドイツに縁があったこともあり、せっかくだから「ドイツ、行ってみるか」と思って。
―そして、大江さんの『旅するフィルムカメラ』という企画についても教えていただけますか?
大江さん:『旅するフィルムカメラ』は、元々ただの思いつきだったんです。カメラ屋として、“どうやったらもっとカメラの面白さを伝えられるのか”っていろいろ考えた時に「まず触れる機会がないじゃないか」と。じゃあ、「貸しちゃえばいいじゃん」と思ったんです。
フィルムカメラを広めたい、フィルムカメラはこんなに簡単なんだよ、っていうのを伝えたかったのが最初ですね。
―フィルムカメラに旅してもらう、っていうのは面白い試みですね。
大江さん:旅させるにあたって「デジカメじゃないよな」って思ったんです。例えばデジカメだったら、おそらくいろいろ消しちゃう画像が出てくると思うんですよ。でもフィルムカメラなら、現像が上がるまでは出来上がりが誰にもわからないですし、そういう不可逆性がある。撮っている間は誰にも干渉されないで撮影に集中できる時間だとか、そういうのを楽しんで欲しくて。
それで、「カメラとフィルム1本を送ります。36枚全部撮ったら返してください」っていう。これが『旅するフィルムカメラ』の概要です。
―今回、カメラはもう1人の主人公みたいな感じだと思うんですけど、『現場監督』というカメラの特徴についてもご紹介していただけますか?
大江さん:『現場監督』は名前の通りで、工事現場や警察が扱う事故現場などいわゆる“現場”を「簡単に」「克明に」映し出すために設計されたカメラなんです。だから防塵・防滴だし、衝撃にも強い。なおかつズームレンズとかが付いてなくて、シャッターを押せばちょうど良く写る画角の28mmに設定されているんですね。フラッシュも光量が強くて、レンズも性能の良い物が使われています。要するに、誰でも綺麗に撮れる。誰でも綺麗に撮れなければ、現場のカメラとしてやっていけませんから。
―それで今回、『現場監督』をItoさんにお送りしたんですけども、カメラの第一印象はどんな感じでしたか?
Itoさん:いま大江さんが仰ったようにすごい頑丈で、自分はモノを壊したいわけではないんですけど、壊しちゃうタイプで。最初は「大丈夫かな?」と思っていたんですけど、実際に持って行った時もすごく良かったですね。頼もしさがありました。
―Itoさんは、今までフィルムカメラにはどれくらい触ったことがあったんですか?
Itoさん:大学一年生の時に『写ルンです』とかが学生のあいだで流行った時に、ちょっと撮ったくらいですね。ほんとに数回しかなかったです。
―では、フィルムを自分で装填して、巻き上げて、っていう作業は新鮮でしたか。
Itoさん:確かに新鮮でした。音も“カシャッ”てしっかり鳴る感じが良くて、より“体で撮ってる”って感じがあったのを覚えてます。
2. フィルムで見るベルリン

―では、撮ってきてもらった写真の中から、いくつかご紹介をお願いします。
Itoさん:今回やってみて、“どこでシャッターを切ったかで、どこで心が動いたかわかる”のが凄く良いなと思いました。特に自分が足を運んだのは、ギャラリーやクラブに、教会です。
…えっと、時系列はバラバラかもしれないですけど、ベルリンの街には歴史的な建造物がけっこうあって、それと若者がグラフィティを描いていたりするストリートの感じ。街全体に、どこか若者主体のストリートやアンダーグラウンドな匂いがあるなと。

Itoさん:ここ、写っている場所なんですが、トンネルの奥が都会の綺麗な街並みなんです。けど一歩道を外れるとこういう異質なストリートな風景があって、奥にはギャラリーがあって。そのギャラリーもなんかすごい不思議で、魔女みたいな女性の方がいて、話しかけたら無言で地下へ連れられて(笑) ちょっと写真には撮れなかったんですけど、そしたら幼虫の祭典みたいなのがあって。街全体が、アンダーグラウンドなものとすごい密接なイメージでした。
―ヨーロッパの歴史の上に、現代のカルチャーが上書きされてるっていう感じがしますね。

Itoさん:これは、その近くのギャラリーで販売していたアートワークです。学生さんの作品らしくて、すごいサイケデリックというか、”日本ではあまり見たことがない”ダークな感じがしました。これすごく良かったですね。
…で、インスタグラムでつながっていたドイツの友人がレコード屋さんで働いていまして、連れて行ってもらったのがこのサウンド・メタファーっていうところなんです。結構ボケちゃったんですけど、レコードとか音楽に根付いたフライヤーの特集とか、パーティー関連のヴィジュアルとかも販売されていて、ここでしか見られないものが多くて良かったです。…音とかも流動体的な感じの音楽が多くて、自分が好んでいる質感の音楽に出会えました。自分、レコードプレイヤー持ってないのに、良すぎて買っちゃいました(笑)
大江さん:ジャケットかっこいいな。フラッシュ焚いた感じが反射してて良いですね。
Itoさん:あと、自分が特に感動したのが、これ(下の写真)です。教会とか宮殿とかにも行ったんですけど、この光の捉え方が『現場監督』くんすごくって。幸い全日程晴れで、光がけっこう当たる感じだったんですが、やっぱりこの緻密さと密度というか、すごく良かったです。

―現地でItoさんが見た感じと、写真になって上がってきた感じって、“見たそのまま”って感じですか? それとも“こう撮れたか!”みたいな発見がありますか?
Itoさん:なんか、空とか光が写っている写真を見るとわかると思うんですけど、すごく柔らかくなってて、めちゃくちゃいいなって思います。これ(上の写真)も、実際にはこんなに暗くはなくて。普通の室内くらいの明るさなんですけど、「こんなドラマチックに撮れるんだ!」みたいな。
大江さん:これ、めっちゃ良いですよ。感動してます。人間の目って優秀なので、暗いところは明るく、明るいところは暗く勝手に補正されてしまうんですよ。でもフィルムや一部のデジタルは、感光層が赤・緑・青の三つあって、そこに入ってくる光を直接捉えているので、一定の露出に対して白飛びしたり黒飛びしたりっていう部分は必ずあるんです。それで、階調性がとても豊かだと言われているのが、あのカメラと一緒にお送りしたフィルムなんです。
Itoさん:それで言うと、色味とかすごく柔らかくなっていて、自分は好きだなって思いました。
―たぶんヨーロッパだから緯度が高い分、光が横から差して、建築の影とかもよりドラマチックに出ているのかもしれません。
Itoさん:それこそ緯度の話で言うと、ベルリンの空は日本よりも青かった。あと、これは朝日なんですけど、夕陽のようなピンクっぽい質感になるのが印象的でした。

大江さん:こんな感じに見えるんだ。
Itoさん:あとこの天井絵、これぜんぶ絵です。

―それこそ、すこしブレてる写真もいいですよね。
大江さん:ブレは慣れていないとどうしても出てきてしまうものなんですよ。でも、そういう偶発性も面白いのがフィルムカメラだと思いますし。昔は画像のアレとかブレとかピンボケだとかを芸術と捉えて発表していた写真家さんもいたくらいです。森山大道さんという、けっこう有名だと思うんですけど。
やっぱりこういう写真は、見てきたものを写真として複写して、その中にブレとかが入ってくることによって芸術に昇華されているのが良いところかなと思います。
―ボケとかブレも含めた生っぽさやライブ感があるから、見てて僕らも旅している気持ちになる。遠くへ連れていってもらった気持ちになったなと。こういう写真って探してもないというか。「ベルリン 画像」で検索しても絶対に出てこないですよね。
大江さん:(普通は)綺麗に残された物しか見ることってできないので、それは『旅するフィルムカメラ』という企画を通して思ったことかもしれないです。“決して上手じゃないですけど、その人の見てきた視点を共有できた”っていうのは良かったなと。
3. やっぱり旅には、フィルムカメラを

―Itoさんは「こういう時に自分の心が動くのがわかった」とおっしゃってましたけど、スマホのシャッターを押すときとの違いはどうでしたか?
Itoさん:それはめちゃくちゃ思いました。スマホはカメラの要素が入った携帯電話なので、写真を撮る時にLINEがきたらLINEを返しちゃう。けど、カメラはカメラの機能だけだから、シャッターで街を捉えることに没頭できたのかな、って思っています。
大江さん:それ、めっちゃ面白いなあ。スマホはカメラ屋さんにとってはすごく問題なんですよ(笑) 特にうちみたいに中古専門で扱っているところは、趣味性だけで打ち出していかなきゃいけないのかな? と思っていたので、今の言葉はすごく力を貰えましたね。「カメラはカメラだから良いんだよ」って。真理ですね。
Itoさん:自分の世代になるとSNSが一般化しているので、スマホで写真を撮ってもシェアするためのものになってしまいがちな部分が自分の中にはけっこうあります。だから、写真を撮って、その場でその場所を味わうという体験は良かったです。スマホから離れてカメラに集中する、みたいな。旅にすごく相性良いなって思いました。
大江さん:やっぱり、旅にカメラは必要ですね。
―大江さんは、Itoさんのような若い世代や、今後の世の中に対して、どんなふうにフィルムカメラが使われていってほしいと思っていますか?
大江さん:物理的に”ある”ことの大切さなど、先ほどのお話を聞いたことで、存在意義を見出せました。今はモノを減らしていきましょう、ということになっていきがちだから時代に逆行しているんじゃないかな? って葛藤もあったんです。でもそれとは別に考えていいんだなって、今は思います。
―フィルムカメラもコミュニケーションの糸口というか、ひとつのキャラクターですよね。
大江さん:写真を文通相手に見せたりだとか、送ったり、そういうコミュニケーションもありますよね。だからチェキとかも流行っている。フィルムカメラが、そういう物質的なコミュニケーションに使えるって聞くと、捨てたもんじゃないな、って思います。Itoさんは、写真の本質的な使い方をしてくれたんだなと今日は感動しました。
―そこにつきますね。本日は良いお話がたくさん聞けました。ありがとうございました。
大江さん:ありがとうございます。
Itoさん:ありがとうございます、こちらこそ。

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◆ 大江大
Inherit Camera 代表
北海道日高郡新ひだか町出身。1988年生まれ。高校中退後に北海道警察に奉職。機動隊勤務などを経て、30歳の節目を機に退職。退職後は中古カメラ専門店にて販売、買取、イベント開催などを通じて知識を深める。よりお客様目線のカメラ店を目指して独立。
◆ Inherit Camera (インヘリットカメラ)
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